逃げようと、一歩後ろ下がったが、強引に引き戻された。
あと少しで、容易くキスできてしまう距離。
「悪い話じゃないだろう? 結婚すれば、ご両親も安心する」
「勝手なこと言わないで! 結婚しないと、あなたは最初に言ったわ」
理人の胸を押し返し、掴む手を振り払う。
「事情が変わったんだ」
「私には関係ありません。結婚したいなら、別の人とすればいい」
一度、ハッキリと拒絶した間柄で、今更何を言うのか。
「俺の子を妊娠してるのは、君だ」
「責任を感じる必要なんて、ありません。社長の子じゃないと言ったはずです」
平行線を辿る、ふたりの会話。
真緒は、睨むように理人を見ていた。
「・・・・・・子供には父親が必要だ。もちろん、母親も」
「・・・・・・」
「ひとりで産むと言っても、出産にかかる費用や、その後の子育てにかかる費用。それらすべてを、ひとりで稼ぐのか?」


