「勝手に決めたが、好き嫌いはあるのか?」
「・・・・・・あまり、好き嫌いはないので」
張り詰めた空気に、理人は苦笑する。
「無理矢理連れてきて、悪かった。会社では、話しにくいことだから、な」
グラスを満たす透明な水が、理人の喉を潤す。
それなりに、理人も緊張しているのだ。
「私には、話すことなんてありません」
「・・・・・・俺にはある」
料理が運ばれて来て、話は一旦、中断された。
見た目も料理の一部、と常々、彩子は語っている。
確かに、出された料理は色合いも鮮やかで、ひとつの絵みたいだ。
(美味しいけど、食欲出ない・・・・・・)
こんな重苦しい食事では、どんなに美味しくても、進まない。
「ひとりで産むことを、誰かに話したか?」
食事の手を止め、理人が真っ直ぐに真緒を見た。
「・・・・・・姉と、両親に」
「反対されたんじゃないのか?」


