「・・・・・・私には、会う理由がありません」
真緒の言葉は想定内だったらしく、一臣は動揺する素振りさえない。
「先日の社長の非礼、私からもお詫び申し上げます」
「!」
深々と頭を下げる一臣に、真緒は慌ててしまう。
「あ、頭を上げてください!」
「失礼は承知しています。それでも、社長はあなたにお会いしたいと」
「・・・・・・わ、わかりましたから、顔を上げてください」
「ありがとうございます」
なんだか、上手く嵌められた気分だ。
幸い、誰にも見られなかったが、一社員に社長秘書が頭を下げている光景は、嫌でも注目を集めてしまう。
「社長室に行けばいいんですか?」
「はい。準備が済みましたら、お越しください」
一臣はお辞儀をして、静かに立ち去っていく。
「なんだったの?」
デスクに戻ると、興味ありげな彩子と目が合った。
「ごめん。鍋はまた今度。急用が入ったから」


