不遜な蜜月


名前も知らない相手と酔った勢いで、なんて言えるわけがない。

こんな失態、人生で初めてだ。


「ん? 外が騒がしいけど―――」


彩子の視線は、真緒から廊下へと移動する。

女子社員たちが、騒ぎながら誰かを待っているらしい。


「あぁ、社長の出社ってわけね。うちの社長、芸能人並に顔良いからね」

「・・・・・・そうね」


会長の孫である我社の社長・黒崎 理人、32歳。

2年前に社長職に就いた彼は、肩書、ルックスは勿論、独身ということもあって、狙っている女子社員が多いと聞く。

真緒や彩子も、社長の顔の良さは知っているが、会話をしたこともなくて、その輪に加わる気にはなれない。


「・・・・・・ちょっと、見てくる」

「珍しい。んじゃ、私も付き合おうかな」


ふたりは廊下に顔を出し、歩いて来る社長をジッと凝視した。