不遜な蜜月


「まだ、時間はあるか?」

「え? そう、ね。終電には、まだ間に合うと思う」


真緒の答えを聞くより早く、理人は彼女の手に、自分の手を重ねた。

柔らかで白い手。


―――抱きたい。


自身の内に燃え上がる欲望の炎は、その夜、弱まることもなければ、消えることもなく。

ただ朝が来るまで、彼女をこの腕の中に抱いていたい。

そんな思いに、支配されていた。





―――コンコン。


ノックの音で、理人は視線を窓から扉へと移す。

ファイルを手にした一臣が、会釈してデスクまで歩み寄る。


「工藤。彼女のこと、早めに頼む」

「わかりました」


ファイルを受け取り、理人はそちらへ意識を集中させる。


一夜の熱情に身を焦がしたとしても、それを後に引くのは本意ではない。


一臣が社長室を出ていくのを視界で確認してから、理人は小さくため息を漏らした。