美紗は答えなかった。

顔を逸らしたままの美紗に納得はいかないが、理人は背を向けて出口へと向かう。


「・・・・・・」


理人が店を出ていくと、美紗はようやく顔を上げた。


「・・・・・・」


不毛すぎる自分の行動。

結局、理人が自分に会いにきたのは、真緒のため。


「・・・・・・引き際を間違えるな・・・・・・」


美紗はぽつりと、昔言われた言葉を思い出す。


(・・・・・・誰から言われたんだろ・・・・・・)


思い出せずに、モヤモヤする。

理人じゃないのは確か。


「お嬢様、お迎えに上がりました」

「・・・・・・うん」


考えるのをやめて、美紗はイスから立ち上がる。

思い出せないけれど、今の自分には嫌味なくらい身に染みる言葉だ。

―――引き際を間違えるな。