「朝から申し訳ないのですが、目を通していただきたい書類が」
「わかった」
書類は一臣が受け取り、理人は社長室へ向かった。
あの夜は、昨日のように祖父母に結婚の話をされた帰りだった。
そのままマンションへ帰る気分にもなれず、ホテルのバーで軽く飲もうと思い、立ち寄った。
カウンターで、偶然座った席の隣は、少し酔って顔の赤い女性―――真緒。
ひとりで飲んでいるのか、と視線を向ければ、目が合った。
黒い瞳は、真っ直ぐと自分を見つめ、ただ優しく微笑んで、すぐに視線は外れた。
興味を抱いたのは、その一瞬だ。
話しかけ、他愛のない会話を続けてしばらく、彼女が不意に漏らした言葉が。
「あなた、私の会社の社長に似てるわ」
その一言で、彼女が社員だと気づいた。
(・・・・・・適当なところで、切り上げるか)
社員と関係を持つのは、面倒事に自分から首を突っ込むようなものだ。


