仕事に戻ろうと歩きだしたその瞬間、前をちゃんと見ていなくて、誰かとぶつかってしまった。

財布や診察券が、床に落ちる。


「あ、すみません!」

「いえ、こちらこそ」


真緒が落とした財布を、男性が拾ってくれた。


(この人・・・・・・)


見覚えがある。

確か、社長の秘書だ。


「どこか怪我でも?」

「い、いえ。大丈夫です。ありがとうございます」


財布を受け取り、真緒は小さく頭を下げた。


「あ、これもあなたのでは?」


男性―――工藤 一臣が見つけて拾い上げたのは、産婦人科の診察券だった。


「・・・・・・」

「あ、ありがとうございます!」


診察券を少々乱暴に受け取り、真緒は足早にその場を立ち去る。


「・・・・・・考えすぎ、だろうか?」


真緒の背中を見送って、一臣は少し遅れて歩き出した。