まぁ、恋人も持たずフラフラとしている理人を、玲奈はあまり快く思ってはいないようだ。
だが、ここ最近は誰とも関係を持っていない。
あの夜を除いて―――。
「・・・・・・」
エレベーターを下り、エントランスを出たところで、見知った顔を見かけた。
思わず、足が止まる。
「社長? どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもない」
再び歩きだし、すれ違う女子社員たちの視線を軽く受け流す。
あの夜から、間もなく一ヶ月。
結い上げた彼女のうなじに、あの夜の名残はもうない。
(今夜あたり、飲みにでも行くか)
前髪をかき上げて、理人は真っ直ぐに前を見据えた。
4週間も生理が来なくて、真緒は覚悟を決めた。
「彩子、ちょっと電話してくるね」
真緒はデスクから立ち、静かな場所へ向かうことにした。
(産婦人科の電話番号は・・・・・・)
財布から産婦人科の診察券を見つけ、番号を確認する。
「・・・・・・あ、こんにちは。香坂です。診察の予約を―――」
少しだけ他愛のない会話をした後、真緒は電話を切る。


