「―――美紗」
ゆっくり近づく美紗の唇を、理人は鋭い目つきで制する。
「結婚が決まったら、貞操観念にでも目覚めた?」
理人のネクタイに手を伸ばし、美紗は微笑む。
「うまくいかないわ。理人・・・・・・ひとりの女に一途なあなたなんて」
「・・・・・・やめろ」
ネクタイを緩めようとする美紗の手を止め、彼女の肩を押す。
「お前が俺に執着するのは、俺がお前の思い通りにならないからだ」
「・・・・・・」
割り切った関係。
けれど、互いの胸の内なんて知りはしない。
「美紗。俺はお前のプライドの高さを知ってる。だから今夜、お前に会ったんだ」
電話で別れを告げることもできた。
だが、それをしなかったのは、美紗が惨めに縋るような女ではないからだ。
「引き際は、弁えてるだろう?」
「・・・・・・そうね」


