「ホテルに、何も残っていませんでした」
携帯の番号やメールアドレスが書かれたメモ、本人の私物などは何も残っておらず、あったのは床に散らばった理人のスーツ。
「会社でも、社長の気を引くようなそぶりはありませんでしたから」
「お前にとっては好都合だろう? 面倒な仕事をしなくてすむんだ」
時折、理人でも厄介な女性を引き当てることがある。
そういう時は、一臣の出番だ。
実に有能なこの秘書は、女性の“後始末”も完璧にこなす。
まぁ、滅多に起こることではないが。
「ん? ライターがないな。・・・・・・前のスーツに入れっぱなしか」
勤務時間中は、なるべく煙草を吸わないようにしている。
仕方ないと、理人は諦めて煙草を箱に仕舞う。
「明日の会議は何時からだ?」
社長室を出て、専用のエレベーターへ向かう。
「10時からです」
「わかった。ここまででいい」
エレベーターの扉が開き、理人は乗り込む。


