一臣の言葉に、理人は微かに眉間にシワを寄せた。
「失態? 何の話だ?」
「“彼女”のことです。・・・・・・社員だと知っていたんですか?」
容姿の良さから、女性に不自由したことのない理人。
一夜限り、ということも少なくはないが、後々、面倒なことになりたくないので、相手は選んでいる。
そんな彼が、社員と一夜を共にした。
一臣からすれば、“失態”だ。
「知っていた、というより、途中で知った、が正しいな」
昨晩のことを思い出し、理人は無意識に微笑む。
「俺が社長と知っていて、近づいたと思うか?」
「どうでしょうか。社長は無駄に目立ちますから、社員でも顔くらいは知っているでしょう」
無駄に、とか、顔くらいは、とか妙に引っ掛かる言い方をするのは、いつものことだ。
「ですが、彼女は社長の気を引きたいようには思えません」
「なんでだ?」
煙草の箱を、デスクの引き出しから取り出す。


