脳裏に浮かんだ考えを頭から追い出して、真緒は首を振る。
「そう? じゃあ、どうして聞いたのかしら」
「さ、さぁ?」
真緒はわざとらしく視線を逸らし、冷たい水を誤魔化すように飲み干した。
外がすっかり暗くなり、黒崎 理人はスーツの上着を羽織り、時計を見た。
(飲みに・・・・・・今夜はやめておくか)
デスクに置かれた自分の携帯を、ポケットに押し込む。
―――コンコン。
「失礼します、社長」
入って来たのは、専属秘書の工藤 一臣。
乱れひとつない整えられた髪は、彼の几帳面さを窺わせる。
「車を回しますか?」
「あぁ、頼む」
前髪をかき上げ、理人は閉じ忘れていたノートパソコンに気づく。
「今夜もお出かけに?」
「・・・・・・いや、やめておく。昨日の今日だしな」
パソコンを閉じて、理人は苦笑してみせる。
「社長にしては、珍しい失態でしたね」


