なんだか男の子みたい、と由澄季は胸の中で思った。


「あちー、喉渇いたよ、ばあちゃん!!」

台所に駆け込んできた瑞樹は、とうとう坊主頭になっていたのだ。

「ほう。すっきりした頭になったね、瑞樹。野球はおもしろいかい?」

ハルがくしゃりと顔を緩めて、瑞樹の頭を撫でた。

「うん。おもしろいよ。でもすっごくお腹が空いて、喉が渇くな」

ハルは笑いながら、麦茶をグラスに注いで、瑞樹に差し出した。それを受け取る瑞樹の腕が、黒く日焼けしていて、由澄季は眩しそうに目を細めた。


「瑞樹、男の子になっちゃうんだね」


寂しそうな声で、由澄季がそう呟いたから、ハルも瑞樹もぎょっとした。「僕、初めから男の子だけど」と言いかけた瑞樹。

「男の子になるなら、もう野球とか、サッカーとかしかしないんでしょ?私と一緒に生き物育てたりしてくれないんだよね。男の子はすぐに殺すもの」

その言葉に、瑞樹は、由澄季が死んだ蛙を埋葬した日のことを思い出した。あの時は知らなかったけれど、後で、クラスメイトの男子が由澄季の蛙を踏みつぶしたらしいと、聞いたのだ。

「僕は生き物も好きだよ。由澄季、野球がない日は、一緒にコロンの世話とかしような」

由澄季は、少しの間、目を丸くして、瑞樹の顔を見ていた。やがて、瑞樹の言葉に嘘がないと判断したのだろう、ふわっと大きな花がほころぶように微笑んだ。

「うん。瑞樹、ありがとう。男の子で優しいのは、瑞樹だけだよ」

由澄季の純粋な笑顔に見惚れながらも、その言葉に傷を感じて、瑞樹は複雑な思いで笑い返したのだった。


「本当に、由澄季は生き物が好きだからねぇ。義也も奈央子さんも嫌がらないから、ずいぶんと家族が増えちゃったよ」

ハルが苦笑して、部屋を振り返った。瑞樹の言葉に出て来た「コロン」は、由澄季が拾ってきた雑種の犬の名だ。

そのコロンをはじめとして、昆虫、ハムスター、インコ、など、早坂家にはいろんな生き物が生息しているのだった。
「まさに、『虫めづる姫』だねえ、由澄季は。変人扱いされなきゃいいけど」

ハルがそう呟く声が、由澄季には聞えていた。「変人」なんて、もうとっくに言われてる。由澄季はそう思った。

学校の友達は、男子は「ブス」と呼ぶし、女子は「変人」と言うしで、皆が由澄季を敬遠する。かといって、彼らに取り入ろうと言う気にもならず、由澄季はすでにそんな扱いをされることにも慣れつつあったのだった。