これだけは、菜津希よりも得意かもしれない。

ズラリと並んだ数字に、初めてそう思った時、由澄季は意外に菜津希を意識している自分を自覚したのだった。

菜津希よりも得意なものが、今までは見当たらなかった、ということになるのだから。


「ほお、由澄季は勉強がよーくできるんだねぇ。1学期の成績が、全然落ちてない」

いつの間にかリビングに戻ってきていた祖母のハルが、由澄季の手元を覗き込んでいる。心から感心した、という風にそう言葉を漏らした。

由澄季が開いているのは、2学期の中間考査の結果一覧だ。

「しっかり先生の話を聞いて、勉強を楽しんでるんだね。由澄季は、物を知ることが好きだもんねぇ、昔っから」

そうかもしれない、と由澄季は思う。何か新しいことを知るのは、無条件に面白い。


「ただいまぁ、ばあちゃん」


珍しくドアの音もさせずに帰ってきたのは、瑞樹だ。

「なんだい、瑞樹。ずいぶん大人しいけど…」

はあ、とため息をついて、瑞樹は鞄から、由澄季と同じ色と大きさの紙を出して見せた。

「これはまた、ずいぶんな成績だこと。早く帰ってきたけど、今日の部活はどうしたんだい」

「当分家で復習しろって先生に言われた」

瑞樹のふくれっ面に、ハルはからからと笑い出した。

「あっ、これ、由澄季の?見せて!」

「瑞樹は見ない方がいい」

ハルがそう言うにも関わらず、無言で頷いた由澄季を確認すると、瑞樹は勢いよく結果一覧を開いた。


「…すっげえ、お前、天才だな」


目を丸くしている瑞樹は、幼い頃のようにあどけなく見えて、由澄季は微笑んだ。

「頼む、勉強教えてくれ」

だから、瑞樹の言葉の内容までは、あまりきちんと聞いてはいなかった。由澄季には、こんなふうにぼんやりすることが、ときどきあった。
「俺、再試験だって」

「…へ?」

今度は、ハルと由澄季が目を丸くする番だった。

「中学で、中間テストの再試験なんてあるのかい?」

ハルにそう問われて、瑞樹はすねた顔のままで赤面した。

「あるって言われたの!な、由澄季、来週まで勉強教えて!」

「…わかった」

来週までになんとかなるんだろうか、と内心由澄季は不安に思いながら、瑞樹のテストの点数と順位をもう一度読み返す。

そこには、何度見ても悲惨な数字が書かれているだけだ。


「あは。ひっどーい。瑞樹って頭悪いんだぁ」


完全に気配を消していた菜津希が、突然そう言って笑いだした。

「ひでえ。っていうか、いつの間に来たんだよ、菜津希」

瑞樹が慌てて一覧を隠しながらそう言うけれど、ふふん、と笑って菜津希は答えない。

「菜津希って、ときどき魔女みたいだよね。気配がなくて、突然現れたかと思ったら、核心を付いた発言をする」

そう言えば、菜津希は、まだ3歳だったくせに、初めから瑞樹が男の子だと気付いていたっけ。由澄季はそのことを思い出している。


「菜津希様は何でもお見通し」


菜津希はそう言いながらせせら笑う。一番年下のくせに、いつでも一番威張っているのが菜津希だ。

「それより、お姉ちゃんの成績も逆の意味で尋常じゃないね。学年1位じゃん。1学期の成績、たまたまじゃなくて、実力だね」

菜津希がふっと微笑むと、由澄季は一番のライバルに認めてもらったような心強い気持ちになった。


実力、いい言葉だ、そう思った。