午後9時。

まだ遊ぶと言い張る瑞樹を、なんとか寝室に押し込んで、ハルはほうっとため息をついた。


3人の年子の孫を育てるには、ちょっと歳を取り過ぎただろうか。ハルは鈍く痛む腰を伸ばしながら、そう思う。

6歳の由澄季は、8時ごろになると、目をこすり出す。ハルが指示しなくとも、歯を磨いてトイレを済ませて、すぐには寝付けないものの、布団にもぐりこんでしまう。

4歳の菜津希は、眠そうな素振りはないけれど、姉と同じことをして、寝室までついていく。

問題は、5歳の瑞樹だ。女の子のように見えても、体力はすでに男の子のもので、由澄季と菜津希の姉妹と遊ぶくらいでは、余ってしまうらしい。

欠伸をしながらも、眠る直前までどたばた走り回って、飛び跳ねている。


「ああ見えても、義成よりずいぶんやんちゃだねえ、瑞樹は」

息子を育てたときと比較しても、瑞樹は男の子らしい元気さを持っていることに、ハルは気が付いている。

「由澄季もそろそろ、瑞樹が男の子だって気がついてもいいんだけど」

そう言いながら、ハルはずずっと熱い日本茶をすすった。

菜津希とは違って、いまだに瑞樹を女の子だと信じている由澄季を思い出して、微笑みながら。


「…まだ眠くないっつうの」

ぶつぶつ言いながら、瑞樹は布団の上でごろごろ転がっている。

「おっと」

うっかり乗り上げた菜津希の布団の上で、瑞樹は菜津希を押しつぶさないようにそっと体を引いた。

「かわいいな」

幼稚園で男女を問わず、菜津希をちやほやする子が絶えないのも納得だと、瑞樹も思う。

よしよしと前髪を撫でると、さも迷惑そうに菜津希が眉根を寄せたから、瑞樹は慌てて手を引っ込めた。
「まだ寝たくねえな」

ごろごろ転がっていると、今度は反対側に乗り上げた。が、こちら側で眠る由澄季は、一度眠ってしまうと朝まで目覚めないから、安心して瑞樹はその顔をじいっと覗き込んだ。

「かわいいな」

そっと頬に触れると、瑞樹は自分の心がじんじんと痺れてきたような気がした。


「俺のお嫁さんになってね」


小さく囁いて、瑞樹はその滑らかな頬に、ちゅっとキスをした。

薄暗い部屋の中、いつの間にか菜津希が目を開いていることには、気がつかずに。