気まぐれに帰って来た可美村美樹子が、珍しく家でゆっくり休んでいた早坂奈央子とともに、子ども3人を連れ出したことがあった。

子どもの感性を重んじる美樹子と、知性を刺激しようと考える奈央子とで、相談の結果、子どもたちはろうそく作りの講座に参加しているところだ。

「これ、全部燃えるの?」

案の定、由澄季は作ることそのものよりも、後で火をつけることを楽しみにしているらしい。

「この色の組み合わせはかわいいよね」

赤地のろうそくにピンクのハート模様を張り付けて、女の子全開のデザインに満足げな菜津希。

「…由澄季、一緒に作ろうよ」

火をつけることに関心もなく、手先も器用でない瑞樹は、早速由澄季に頼ろうとしている。それもいつものことだと、美樹子がけらけら笑って見ている。


「ちょっと瑞樹、お姉ちゃんはあたしと作るんだから」

そっと由澄季に近づいてきた瑞樹を押しのけて、菜津希は由澄季の真横に腰かけた。

「何色のろうそくでも、燃やしたときの炎の色は、きっと変わらないよね」とか何とかぶつぶつ言いながら、由澄季は集中して作業に没頭している。

「何だよ、菜津希は一人で作れるだろ。俺お手上げだもん」

「諦めが早いよ、瑞樹は。とにかくこれはあたしのお姉ちゃんだからね」

「俺にとってもお姉ちゃんみたいなもんだからな」

「血がつながってないくせに」

「うるせえ」

右に左にとひっぱられる由澄季を見て、奈央子が苦笑いをしている。小さいうちの数か月の重みは大きいもので、由澄季が瑞樹と菜津希の姉のようになっているのも、無理のないことだと思う。

由澄季も、さすがに集中していられなくなったらしく、ぱちぱちと瞬きをしている。

早くも学者肌と言うのか、同じ年ごろの子どもたちとは違うところに関心を持ち、そこに意識が向いてしまったら、全く周囲を気にしない由澄季。そんな長女に、積極的に関わろうとしてくる次女と瑞樹は、彼女にとって貴重な存在だということには、奈央子も気が付いている。


「菜津希のろうそく、かわいいね」

今気がついたかのように、由澄季は菜津希のろうそくを見て微笑んでいる。「でしょ」と言って、菜津希が胸を張っている。

そうして、由澄季はふと瑞樹のろうそくを見て首をかしげた。

「…ねずみ?」

「クマだ!」と叫び、「由澄季、手伝って~」と縋りつく瑞樹を、菜津希が押しのけている。

「ちょっとだけ手伝おうか」

そう由澄季が言うと、菜津希が大きな声で抗議するのだ。

「もう!お姉ちゃんはあたしと瑞樹のどっちが大事なの!?」

「どっち、とかないけど。ただ、瑞樹のクマはひどい…」

「おい!そうじゃない。俺と菜津希、どっちが大事なんだよ!?」

「だから」

またしてもふたりに揺さぶられながら、由澄季はたいした表情も浮かべずに言葉をつなぐ。


「ふたりとも大事だよ」