分かってる。


ヤコさんの不満は当然だと思う。


でも俺、下戸なんだよね。


それが会社勤めをするようになってから、酒を飲むようになった。


得意先と距離を縮めるには、アルコールが手っ取り早い。4%が限度だけれど。


飲んでは吐き、吐いては飲んで、営業トークを繰り返す。


家に帰るともう、起きていられない。


ま、それだけじゃないんだけど…。


「マサくん、電話」


着信するや否や、ヤコさんが指差した。


こんな夜分に、鳴り止まない携帯を。


「出ないの?」


「誰かな?」


首を傾げながら、誰からか確認し、出ることにした。


本当はソッと切りたかったけれど。


「あ、はい、部長。はい、明日の企画書ですか?」


立ち上がり、カバンの中を探す。


書類を開きながら、


「先方は200って話なんですよ、はい。いや、でも倍でも大丈夫かなって…」


チラッと後ろを振り返ると、先ほどまで睨みをきかせていたヤコさんは、風呂場に消えた。


「あ、キマさん、もう大丈夫です」


小声で声色を切り替えた。


「ヤコさんには聞こえないんで。はい、明日っスね。了解です」