十年ほど前、街で初めて彼女を見かけたとき、俺は欲求を感じた。
その女は愛らしく、妖艶であり、優雅で、気品があった。
今まで見た女とは、明らかに違う。
ほかの人は、一目惚れだというだろう。
違う、確かに惚れてはいたが、俺は彼女を自分の女にしたかった。
そのときに、告白すれば良かったのだが、未経験という壁が遮った。
俺は、好きな女の前で失敗はしたくなかった。男とはそういうものだ。
さらには、経済力と法が俺の足枷になった。
結局そのときは声すらも掛けられなかった。
次に俺が彼女を見たのは、それから数年後だった。
俺は、驚愕した。彼女がブラウン管の中で微笑んでいる。
ああ、俺の、俺の女がテレビに・・・。
手が届かないというのは、当にこのことだった。
それでも、彼女を一瞬でも逃すことは出来るはずもなかった。
ただ、空想だけで、彼女を・・・
 
それから、さらに数年後、俺は法の壁を極自然に越えた。
初恋というのは叶わないのが当たり前なのだろうか。
結局俺は別の女と知り合い、そいつと一緒になった。
その女は、純日本的であり、いつも俺に尽くしてくれた。
俺が乱暴をしても、口応え一つしなかった。

去年再び彼女を、街で見かけた。運命の出会いと言うべきであろうか。
俺は全てをぬぐい去り、彼女に告白をした。
叶わぬ恋であることは、間違いなかった。
以外にも彼女は、数日待って欲しいと答えてくれた。


数日後、彼女は俺と一緒になってくれることを
誓ってくれた。
その答えを聞き、喜び、そして、俺はあっさりと最初の女と別れた。
一緒になったその日、俺たちはドライブへ行った。
俺たちに、言葉は必要なかった。
そして、俺たちは一つになった。

それから数ヶ月後、突然彼女は病に伏せった。
医者がいうには軽い病気ということだった。
しかし、医者の誤診だったらしく結局彼女は
入院してしまった。
 
最愛の彼女を失った俺は、路頭に迷い自暴自棄になり、
酒を飲み、そして、行きずりの若い女と浮気をした。
浮気という罠に掛かった俺は、若い女の虜になっていた。
俺は、虜で有りながら、虜であることを楽しんだ。
しかし、こういったことが長く続かないのは世の常である。

彼女が退院をし、俺は浮気をしていた女と別れた。
彼女の病気は既に全快していた。
彼女は楽しそうに、笑い声をあげる。
俺は、笑い声を聞き、心が張り裂けそうになる。
彼女は、俺が浮気をしていたのを知っているのだろうか。
それを考えると俺の体は、脈が早鐘のようになり、そして気分が重くなる。
もうやってしまったことなので、後悔はしていないのだが。

 

「今朝はいい天気だ。」と俺は言い、彼女が微笑む。
彼女の笑顔は10年前と変わっていない。
俺はいつものように彼女にキーを差し込み、シートに座った。