待つこと数秒。




『…はい?』




少し高めの声。
もしかしてお母様だろうか?




「私、鈴木紗奈と申します。
あの、笹原晶君を見舞いにやって来たのですが」


『まぁ…まぁまぁ。それはそれは。
晶ー!彼女の紗奈ちゃん来てくれたわよ!
会うでしょ――?』




そしてそれから何やら聞き取れぬ攻防が始まり、漸く片が付くと




『…ごめんなさい、紗奈ちゃん。あのバカ息子メチャクチャ会いたがってるくせに会わないの一点張りなのよ。
紗奈ちゃん病み上がりでここまで来てくれて申し訳ないんだけど…帰ってもらえるかしら?』




――…あぁ、どうしてこの人達はこんなに優しいのだろう。


私に風邪をうつさないためって言えば良いのに。私のためだと言えば良いのに。


この人達はそれさえ言わないのか。



なんて不器用で…


なんて温かい人なんだろう――…