「ありがとう。止めてくれて」


 シンヤは立ち上がり、ベッドの上に放り投げておいた携帯電話を拾った。


「課長に連絡しなきゃ。真純さん、悪いけどそのツール閉じておいて。角の×ボタンで閉じるから」
「うん」


 返事をしてパソコンに向き直ったものの、簡単な事が案外簡単でもない。
 シンヤのノートパソコンには、マウスが接続されていないのだ。

 放浪生活をしていたシンヤには、持ち歩くのに邪魔だからマウスを使わないのだろう。

 ノートパソコン特有のタッチパッドの使い方は真純も知っている。
 だが慣れていないので、カーソルが思うように動かない。

 ようやくウィンドゥの角に位置づけてクリックボタンを押した途端、カーソルが角から外れた。
 しかもなんだかダブルクリックになってしまったようで、ツールの下にあったアイコンが起動し始めた。