会議室の扉を閉めて席に付いた途端、課長は唐突に切り出した。


「あなた、最近アンダーグラウンドを覗いた事ある?」
「いいえ」


 ハッカーである事がばれて真純の家を追い出された後、進弥は一度も怪しいサイトはうろついていない。

 進弥は辺奈商事への入社に当たって、会社とは別に課長と個人的に誓約書を交わしている。
 そこには主にネット犯罪に関して、事細かく取り決めがなされていた。
 アンダーグラウンドは覗く事すら許されていない。

 もちろん個人のパソコンでこっそり覗いて、黙っていれば発覚する事はまずない。
 証拠を隠滅する事くらい、”シンヤ”にとっては造作もない事だ。

 けれど進弥は、真面目に取り決めを守っていた。

 背く事は、自分の素性を知りながら入社を許した課長を裏切ると共に、再び真純を泣かせる事になるからだ。