互いに勘違いしていた事がおかしくて、真純はクスリと笑った。
「私もおまえが嫌いなわけじゃないよ。ただ一緒に仕事したくないだけ」
真純がそう言うと、高木は頭をかきながら笑う。
「相変わらず手厳しいなぁ、須藤さんは」
一応、高木も努力はしていると言う。
目覚まし時計を十分間隔で鳴るように、部屋のあちこちにセットしてあるらしい。
それでも三日に一度は寝過ごしてしまうというから、かなりな強者だ。
他人の世話ばかり焼いてないで、自分が毎朝起こしてもらえる嫁さんをもらえばいいのにと言うと、そんな心の広い女の子はなかなか見つからないらしい。
寝過ごしてデートや記念日の約束をすっぽかしてしまい、過去何度も破局したと苦笑混じりに白状した。
光景が容易に想像できるだけに、真純は思わず吹き出した。
「たまには飲み会にも来て下さい」
そう言い残して、高木は笑いながらビルの奥に消えていった。
それを見送り、真純も家路につく。
高木とのわだかまりがなくなり、高かった会社の敷居が、少しだけ低くなったような気がした。



