結局真純の案を採用し、白ワインのフルボトル一本とグラス二個、パンとチーズとハムを持って河川敷の桜並木に向かった。

 先日夜に進弥が来た時は、桜はまだ七分咲きくらいだった。
 今日はすっかり満開で、時折吹く風にハラハラと花びらを散らし始めている。

 さすがに週末だけあって、腰を据えてはいないものの、チラホラと花見客の姿がある。

 空いたベンチを探して遊歩道を歩いていると、少し先で立ち止まったカップルが目についた。

 眩しそうに桜の花を見上げた少女の横顔に、進弥は見覚えがある。
 あの夜、ベンチで泣いていた少女だ。

 あの日はフワフワしたワンピースに踵の高いサンダルを履いて、少し大人っぽい格好をしていたが、今はデニムのミニスカートにスニーカーと、随分カジュアルな服装だ。

 まだ足のマメが完治していないのかなと思い、進弥はクスリと笑う。

 まさかそれに気付いたわけではないだろうが、少女が不意にこちらを向いた。

 進弥と目が合った少女は少しだけ笑顔を見せ、隣にいた青年の腕に掴まりながら、そのまま桜並木を遠ざかっていった。