「じゃあ、ごゆっくり。私が余計な事を話したのは、内緒にしててね」


 そう言って笑いながら、課長はカフェを出て行った。

 進弥は生ぬるいエスプレッソを眺めながら、ぼんやり考える。

 あの時の別れが、真純にとってそれほど重いものだったとは、考えてもいなかった。

 自分自身は、何とかして堂々と真純の元へ戻れる手立てばかり考えていたから。


—— 行かないで。ずっと側にいて ——


 酔った真純が半泣きで口にした言葉が、脳裏に蘇る。

 あれは親友の課長にすら明かす事が出来なかった、真純の心の叫びだったのだ。

 真純の想いははっきりと分かった。
 もう彼女の気持ちを疑って、不安になる事はないだろう。

 後は自分を真純に信じてもらうだけだ。
 元々信頼度はマイナスから始まっている。
 今どの程度までプラスに転じているのか、或いはマイナスのままなのかは不明だ。