とはいえ、時刻はすでに九時を回っている。
 女子高生がひとりで、こんな暗がりにいるのは不審だった。

 まさか人じゃない、なんて事はないだろうか。
 一瞬そんな事を思って、しげしげと眺める。
 だが、どう見ても生きている人にしか見えない。

 少女は踵に手を当てて、目をこすりながら鼻をすすった。
 泣いている。

 進弥が気付いた時には、堪えきれなくなったのか、小さな声を漏らしながら本格的に泣き始めた。

 誰もいないと思っているのか、少女の泣き声は次第に大きくなっていく。

 イヤなものを見てしまった。
 進弥は内心舌打ちする。

 自分の事に手一杯で、他人を気遣っている余裕などない。
 面倒はごめんだ。

 すぐに別の場所に移動したいのに、進弥は気になって動けずにいた。

 しばらくその場に立ち尽くしたまま、少女の様子を窺っていると、通りがかった帰宅途中と思われるサラリーマン風の男が、少女の少し向こうで立ち止まった。