家に帰り着くと、すっかり夜になっていた。
あの雑居ビルは真純の家の最寄り駅から、電車で五つも先の町にあったのだ。
家に帰ったシンヤはすぐに二階に上がり、すでにまとめてあったらしい荷物を持って下りてきた。
そのまま真っ直ぐ玄関に向かうシンヤに、真純は黙ってついて行く。
玄関に下りて靴を履いたシンヤは、振り返り真純に右手を差し出した。
真純はその手を握り返す。
シンヤはいつもの人懐こい笑顔で、口を開いた。
「ちゃんと挨拶できてよかった。あのままじゃ後味悪かったし。短い間だったけど、真純さんに出会えて一緒に過ごせて楽しかった。色々ウソついて迷惑かけちゃったけど、これだけは絶対本当。僕、真純さんが好きだよ。きっと忘れないと思う」
どこか吹っ切れたようなシンヤの表情に、胸が痛くなる。
自分はまだ吹っ切れていない。
もうすぐ終わりなのだと思うと、想いは益々募る。
後悔しないように、ちゃんと伝えなければ。
真純はシンヤを見上げて微笑んだ。



