そもそもデートなどといっているが、買い物に行くだけだ。

 私はよく図書館や書店に顔を出す。趣味の一つともいえる読書のためだ。
 もともと読書という趣味は父からの影響である。父はよく本を読んでいたし、私にも絵本(を読むような歳ではなかったが)や児童書なんかを選んでくれたりしていた――――自宅のたくさんの本がその証拠となっている。


 そんなことを彼と―――ゼノンと話していたら、今度行きますかとなったのだ。

 デート、といえばデートである。
 違う気もしなくもないが…。


 一応、多少は知識がある。といっても、同年代の女性神官らが話していることを聞いたとか、雑誌の記事もとかからのもので経験はないといっていい。
 彼女らの話していることや、雑誌に載っていることを私が出来るかといったら、できない気がする。

 ふりふりした洋服も、お高いレストランも、私には合わない。



 時間に少し余裕を持たせて家を出たが、待ち合わせ場所に姿を見つけて焦る。




「すみません。待たせてしまいましたね」

「いいえ。私の方が少々早くついてしまったんです」

「あの…」

「ああ、これですか?」



 ゼノンは視線を下に向ける。
 腰には剣が下がっていた。神官が使う剣である。それから私服ではあるのだけれど、今から少し街の外にでも出られる、というような、動きやすい格好だった。私服、という感じがしない。
 


「何かあった時にすぐ対応出来るようにいつも、といったらあれですが…大抵は少し武装してるんですよ」




 神官は、魔物と戦うことが多い。
 よって身を守るもの、武器の所持は認められている。神官用のものに、と限られてはいるのだが、例外も存在している――――のは知っている。

 だが、私は今丸腰であった。
 というのも聖都で大きな事件なんて滅多にないのと、自分の能力のこともあって休みは武器を持たないことが多い。

 何かあった時のために、か。




「どうしました?」

「ゼノンさんって、やっぱり真面目なんだなぁって」

「少なくともハイネンと父よりは真面目ですけど、手抜きもばっちりしてます」

「……それ、いっていいんですか」
 
「秘密にしてくれるでしょう?」




 
 歩き始めながら、他愛のない話ことを口にする。最近の出来事。誰かの話。孤児院こと―――本当に日常のことだ。

 恋人となってのはいいが、なにをするものかさっぱりだった。

 ゼノンは、今まで通りでいいといった。それから、今まで通りよりも、大変なことや辛いこと、楽しいことを分かち合えばいいと。何をどうする、というものではない。

 なんとなく、わかる。
 
 自分の揺れ動いていた気持ちに決着をつけてから、私はこの気持ちが大切になった。
 未知との遭遇。どきどきをもて余している。知りたいけど怖いし、知って欲しいけど嫌だと思われたらという不安。なのに、ほっとする。ただ寄り添うだけで、隣にいてくれるだけで安心する。


 本棚を二人で回りながら、どういう本が好きなのかを知る。
 が、彼は様々なジャンルの本を読むらしい。興味があるものを手に取りぱらぱらとめくるのは、私もよくする。どんな本か見せてもらったが、なにやら難しいそうなものだった。




「一番読むのは研究レポート、ですかね」

「研究レポートって、術式の報告とかの…」




 神官には研究者がいる。
 私が浮かぶとしたら、ゼノンの友人であるエリオン・バーソロミューだ。
 術式や古文書などの研究―――をしている彼らの報告書は、神官ならば見ることができる。ブランシェ枢機卿も目を通すことがある。
 私も見ることがあるが、難しいものが多くで完全に理解は出来ないことが多い。あれをよく見るのか……。





「闇堕者なんかだと、禁術を使ってきますでしょう?対策として、という感じです」

「私も見ることがありますけど、難しくてちんぷんかんぷんのことが多いですよ」

「まあ、報告書ですからね。ですが研究者によって凄く分かりやすく書いている人もいますよ―――逆もいて、私でも完全に理解は難しい。しまいには、もっと簡単に書け、
とか思ったり」

「わかります、それ。文句をいいたくなるというか…」




 頷く私に、ゼノンが笑うのと同時に「そういえば」と思い出したように言葉を続ける。
 



「シエナさんの家には、立派な書斎がありますよね」

「ええ。父の趣味丸出しの本ばかりですけど」




 並ぶ書棚。図鑑から絵本、辞書などがつまっている小さな図書室。

 自宅が荒らされたとき、ゼノンにも片付けを手伝って貰ったのを思いだす。