「表裏一体といえるものではないかと。使いようによっては悪くも良くもなるようなものではと考えていた」
「まあ、大量殺戮術なんかあっても使い道はねぇよな」
「ウェンドロウはシエナさんを特別扱いしていた。そしてセラに殺される。のちにハインツが出てきた時も、劣っているとはいえ同じような力をもつルゼウスには見向きもせず駒として扱っていたのにも理由があるはずだ」
ランジットはジャナヤでのことを思い出したのか、眉を潜める。ゼノンも同じような顔をしているだろうが、続ける。
ゼノンはあのとき見ていた。ハインツが術陣へ手を伸ばすと、シエナもまた同じように手を伸ばし、重なるように近寄る。そして指先から術陣に触れ、そして沈み通り抜けたシエナの指先はハインツのものになっていたことを――――。
それをとめたのはルゼウスであった。その時ゼノンはシエナを抱いて後退、ハインツの怒声。
ゼノンはこのことを話していたので、振り返りとしてのこの話もランジットはうなずき続きを促した。
「ウェンドロウはシエナさんの体を欲しがった。ハインツとなっていたがもし、ウェンドロウの時にセラが見つけられなかったら、ウェンドロウはシエナさんの姿になっていたかもしれないということだろう?リスクを負ってもシエナさんには価値があったから、奴はハインツとしてまた姿を見せてシエナを狙ってきた」
「ん…?まてよ。じゃあウェンドロウはシエナの中にある術式を知っていたかも知れねぇっていうことか?」
「ウェンドロウの件は今から数年前でアガレスの件よりも新しい。ウェンドロウの時にはすでにリシュターは枢機卿長だ―――知っていてもおかしくはないだろうが、リシュターが狙っていたシエナさんをそのままウェンドロウにやるとは思えない。何か手を打つはずだろう。だが、セラが先手をとり、何も出来ないように守りの術をかけた……」
「お前が見たっていうやつと、守りって…」
人形に魂を喚びいれるというものがある。魂の器として人形を使うそれの欠点は人形はあくまでも人形だということだ、
長くはもたない。
ウェンドロウ、もといハインツがシエナを使ってやろうとしていたのはそれと似たようなものたろう。簡単にいえば魂の入れ替えといったところか。それと似たようなものが聖都の古い記録にあり、禁術とされている。
研究していたからこそ、ハインツはそれをしようとし、ルゼウスに阻まれておわった。それを完全に出来るようになっていたのかはわからないが、出来ていたなら……。
ウェンドロウがハインツとなっている時点で、その可能性は高いだろう。
そして方法をシエナに刻んでいたら?守りをかけた理由がそこにあるかもしれないし、そうでないかもしれない。どれもこれも本当がわからない。
もし他者と魂を入れ替わることが出来るなら、闇堕者らなんかは次々と体を乗り換えながら生き延びていくことも可能だろう。
本人であるのに、本人ではない。
そうなると見分けがつかない。
そこまで考えて、ゼノンは恐ろしくなった。考えていたものであるが、もしそんなことをされたら、またはシエナがされたら――――。
ないとは、言い切れない。
生身の体では必ず、ひとつの魂が限度とされる。
ウェンドロウがハインツとして姿を見せたあれは入れ替わったという可能性もあるが、個人の魂、つまり元々のハインツという人物の精神を破壊し封じて乗っ取ったというほうがしっくりくる。


