ハイネンとランジット、そしてエリオンとともに現在、ジャナヤにいた。
言われていた通り、現地の神官に話を聞いたがやはり記憶がなく。それでもある程度聞いたあと、ジャナヤ内をあちこち見て回ることに。だが、術がかけられていたところもそのままであり、これといって変わったところは見られない。
視界にはハイネンがいて、彷徨きながら何やら考えているのが見えた。エリオンもまた何やら彷徨いている。
どうしたものか。
シエナの過去を知ったこと。彼女の知り合いであったルゼウスの死。ジャナヤで行われていた人体実験ら…。
ゼノンはシエナらと来た際に"見ている"。人形、死体、惨たらしいことがあったそれ。過去をの過去は優しいものではない。聖都にいる年寄り連中が一言で片付けられるようなものでもない。
今でも、彼女は苦しんでいるのだ。
「なあ、ゼノン」
高い壁を見つめながら、隣にいるランジットが声をかける。「生きた管理者ってなんだろうな」というそれに、ゼノンは答える。
「人の体に術式を封じ施された者、だが…」
「口封じとかで殺されたり、また術式を守るために自殺したりとかもあるよな?」
―――そう。
昔は術式を守り管理するために人の体を利用していたことがある。もちろん<フィストラ>の信者や神官らの身へだが、たいていはその術式が危険なものであるが故、完全に消し去れるためなのだろう。
狙ってきた者とともに、死を。並大抵な覚悟では出来ない。
だか「引っ掛かるんだよ」というランジットに耳を傾ける。
「アレクシス・ラーヴィアは何で自分を管理者としたなかったのか。奥さんは先に死んでいて、危険だとわかっているのにも関わらず、何で自分の子供に託したのか。親なら、そんなあぶねぇのを子供に託すか?狙わるれるのわかってるなら、自分でなんとかしたほうが確かだろう」
「セラヴォルグやアガレスらがなんとかしてくれると思ったのか。あるいはまた別の理由があるのか……。確かにお前のいうのもわかるな」
アレクシス・ラーヴィアは優秀な神官である。その術式に価値があったとしても、危険で、かつ闇堕者などに奪われたら最悪な状況を生み出すことになるなら―――破壊を選ぶ方が確実であっただろう。
子供が長い間行方知れずとなり、後にシエナに変わることもなかった。
何故、彼はそうしなかったのだろう。
そしてヴァン・フルーレでアレクシス自身が、術式に関してシエナの身には害はないことを話していた。
しかしあのとき、術式が一体どんなものなのかを話さなかったし、同じ場にいたヤヒアも存じません様子だったのを、ゼノンは思い出す。
ヤヒアはしらなくても、"本人"が知っているかもしれないが。
―――一体何をやろうとしているのか。
「ヤヒアは大量殺戮術でも封じたかと思っていたが―――といっていたのをみれば、術式はそれとはまた別の可能性が出てくる。取り出せないことや、奴らには扱えないことなんかも、な」
言い切れるほど何か秘策があるのか。
敵は禁術を研究し平気で使ってくる。
組織ぐるみで存在するそれは、リシュターがトップにいるなら下の連中はさぞ動きやすかっただろう。一般に知られているアンゼルム・リシュターは柔らかな笑みに人望があり、優しき賢者などという。実際、そうだったのだ。ゼノンも、そしてあのエドゥアール二世とてそう思っていた。
枢機卿長が優しい笑みを浮かべているその下で、一体どんなことが今まで行われてきたのか……。シエナが見て知っているものと変わらぬだろう。
ヤヒアはともかく、あのリシュターが扱えないとは言い切れない。
「お前はシエナにある術式はどんなものだと思う」
ゼノンはヴァン・フルーレで見たアレクシス・ラーヴィアを思い出す。
どういう術、方法なのかはさておき、アレクシスは短い黒髪の男だ。シエナを見て、その心配げな、それでいてほっとするような複雑な表情に、強い意思。
彼は、術式を封じることを選んだのだ。その理由は必ずあるだろう。


