「正体不明の敵か味方かもわからねぇやつにあいつのこと教えるかよ」
―――これで死んだら、あいつは泣いてくれるだろうか。
圧倒されながらもレオドーラはなんとかしようと考える。なんとか、だなんて出来るのか?いや、違う。敵なら立ち向かうだけだ。
ふっと、その気圧されていたのが和らぐ。なくなった、といってもいい。
しかも相手はそのままレオドーラを見ているのだから「なんだよ」と気になって言葉を投げた。相手はなんだか迷っているように見えた。まさか、性別か?レオドーラは女顔だなんていわれる。とはいえ、自分で俺は男だ、だなんていうのも気が引ける。
「バルニエルといったら…まさか君はファーラント・ロッシュか?」
「だから、何で知ってんだよ!ああもう、俺はファーラントじゃない。レオドーラ・エーヴァルトだ。上司はアーレンス・ロッシュで神官。これで文句ねぇだろ!」
いつまでたっても相手がよくわからないので、レオドーラはやけくそにそういった。
ハイネンのことを知り、シエナの名前を出し、しまいにはレオドーラを見てロッシュ兄弟の兄の名前を出すこの人物が――――敵には見えなかった。ハイネンとファーラント、アーレンスの名前か出たとき、また和らいだようにみえたから。
もしこれで違ったらと思うとあれだが、「そうだろうな。君はアーレンスに似ていない」といい、「動きは似ているが」という。そこにはまるで知っていて、懐かしさを含んでいるようなものだった。
レオドーラはアーレンスから剣を習うから似ていても可笑しくない。だが、バルニエルでこんな人物を見たことがない。
ヴィーザル・イェルガンと同じような、昔の友人なのだろうか。
「アーレンスは元気か?」
「――――会いに行けばいいだろうが。すぐ近くなんだから」
レオドーラのそれに相手は答えなかった。その綺麗な顔に影がさしたのは気のせいではないだろう。
「そうしたいが、私には時間がないのだ。あまりのんびりはしていられない」
この人物はアーレンスと知り合いであるが、会えない。なら、こんなところで何をしているのか。
「―――シエナが行方不明ならば、急がなくては」
レオドーラは何故、というのをやめた。相手は"知っている"のだ。
だが、アーレンスに確かめる術は今はないし、自分一人だ。バルニエルへつれて行こうにも難しいことは別っている。そして時間を稼いでも意味がないことも。
このままはいそうですか、と逃がしていいのか?
「俺だってシエナを助けたい。でもあんたは、不審者だ」
「そうだろうな。こんなでは」
「だから」
レオドーラはわかっている。
自分は、あまり頭がよくない。たたちょっと剣と体術が出来るだけの、ただの神官だ。だが、助けたい。
そこでレオドーラは思い出していた。シエナの他にも、同じく行方不明となっている人物がいることを。そして、死んだと思われていた人物が実は生きていたということを。
決めた。
「俺も連れてけよ」
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