「……幽鬼の残りがこちらに向かっているだろうから、君は戻ったほうがいい。ここからまっすぐ向こうはへひたすらいけば、道に出るはずだ」
「おい、質問に答えて―――うお!?」
馬に乗った幽鬼だ。二体。
もしかして、とレオドーラが思っているとその二段階はまっすぐレオドーラの方へ向かってきたため、フードの奴どころではなくなった。
囲まれた、と思う矢先「動くな」という声。動くなって…と思ったが、素直にそれに従った。
走ってきたフードの人が剣で馬ごと幽鬼一体切り倒す。そして残った方はというと同じように切り倒すのかと思ったら、違う。確かに切ったが致命傷ではなく、幽鬼は地面へと倒れた。そしてその剣を肩へと突き刺し、もう片方へはナイフを突き刺す。ここまでするのにたいした時間はかかっていないし、苦戦もしていない。
フードの人はというと幽鬼の上を跨がって―――「おい!」
「あんた、どっかの神官か?」
そういうのには幽鬼との戦い方にもあるのだが、それよりもレオドーラにはなんとなくとある人の動きというか、雰囲気が重なったのだ。
それに一般人が幽鬼に遭遇すること、ましてや戦うだなんて考えにくい。
あきらかにこの人物は、戦闘に慣れている。
レオドーラは現在、短剣やナイフくらいしか、武器はないので戦闘は不利である。が、不審者を見逃すことは出来ない。それに今、シエナが行方不明なのだから。
何故、と聞かれたそれに「幽鬼のこともそうだが」と続ける。
「知り合いの奇人変人男と似てたんだよ。まあ、勘違いかもしれないが」
「奇人…?」
フードの人は幽鬼からこちらに顔を向けた。
何が気になったのか。奇人変人か?
「ヴァンパイアの神官で奇人変人、そういや、一部ではミイラ男って呼ばれてるらしい」
「―――ハイネン」
それは呟くように発せられた。レオドーラは聞き逃さず「知ってんのか」という。
謎が深まるばかりだ。
あの奇人変人ハイネンと知り合いなら、何故こんなところにいる?何をしている?聞くことはたくさんある。「ひとつ、聞こう」というそれに、レオドーラは気を引き締める。留めていた幽鬼は瀕死であったためにすでに煙のように消えてしまっていた。相手はそれを気にせず、レオドーラを見る。
相手は、得体の知れない何かがある。レオドーラは唾を飲み込んだ。
「シエナ・フィンデルは今、何処にいる」
その名にレオドーラは動揺した。シエナ。彼女を知っているのか。"奴ら"の仲間か?それなら、不味い。かなり不味いだろう。
相手のそんな言葉に、レオドーラは気圧されていた。
暑さのせいじゃない汗が流れる。短剣を握る手にも力が入った。
しかも、こいつかなり、やる。


