とある神官の話




 周囲全体に術をかけ、かなりの人数の神官らが討伐戦に参加した。
 それだけ、必死なのだ。



「一種の戦争だな」



 セラヴォルグがそう漏らすのも頷けた。武装神官らが世話しなく動いているのを見ながら、眉をひそめる。

 逃げられないように一帯に閉じ込めつつのそれに、私とセラ、そしてハイネンが呼ばれていた。これだけ大きな討伐戦はかなり珍しい。
 セラはその討伐戦に難色を示していた。猖獗状態とはいえ、上からの命令は残虐なものだということには私も理解出来るが……。




「…捕まえる気はないのだな。奴らは」

「それはそうだろう。あんなことが出来るなど――――ヒトではない」




 上からの命令は、そう。民間人や捕らえられていた者らは速やかに保護し、闇堕者や魔物、そして一帯を"浄化"しろというものだ。つまり、殺せということである。
 完全に危険ならば致し方ない。だが、半ば強引に闇堕者とされた者まで殺せということに、セラは不快だという。

 しかも闇術が外部に洩れぬよう、建物などは全て破壊、燃やせという命が下っている。セラのいう通り戦争のような状態だった。
 ハイネンとセラと別れ、他の神官とともに私は刃を奮う。力を使う。


 培養槽らしきものには、魔物とヒトを融合させたような者が浮かんでいた。安らかな女の顔なのに、体は魔物だった。それらを破壊し、書物らも徹底的に破壊していく―――ここには"生"がない。死ばかりが転がっている。
 血で染められた顔。転がる死体とその部分。まさに地獄だ。




「フィストラの名のもとに」




 悲鳴。怒号。弾んだ息のまま、闇堕者の一人と対峙した。男は容易く崩れ落ちる。男は血溜まりの中でも低く笑っていた「そう、か」
 男が「貴様は…アガレスか」と奇妙な高い声を発した。



「ふ、ふふ。あの、女の最期は実に惨め、であったぞ」

「何を言っている?」




 血が滴り落ちる刃を下げ、怒号や悲鳴を聞きながら私は眉をひそめる。




「こういったほうが良いか―――アルエ・ネフティスは実に良い実験体であった、とな」

「っどういうことだ!」



 ――――どういう、ことだ?
 私は反射的に男へ刃を向けた。男は血溜まりの中で死にかけていてもなお、笑みを浮かべている。それより…実験とは何だ?何のことだ?

 何のことだと問い質すも、男の唇から血が吐き出される。四肢が痙攣し、やがて止まった。返答が閉ざされた。
 何が、どういう……?
 彼女の死は、あの奇妙な能力によるものだと言われていた。だが、実験?



 全て破壊し、消し去る業火。
 それは断罪のための焔が生き物ように見える。



「これで本当に終わるのか……?」






 …――――。

 目を閉じると、あのジャナヤを思い出せた。焼ける匂い。死体。

 私は、知りたかった。全てを。何が本当なのか、何が正しいことなのか。誰が、操っているのか。どこまでの闇なのか。そんな私を無茶なことをするなと止めたセラには悪いが、私は確かめたかった。


 立ち入った部屋は、薄暗かった。

 実験の後や不気味な培養槽に顔をしかめながら、残された書物や書類を探っていく。




 <―――日。漸く手に入れた術式は不完全だった。アレクシス・ラーヴィアがそれを託したらしい子供は一旦手に入れたが、逃げられてその後行方不明。他の者に探させる>


 <―――"能力持ち"の力を吸収する力は素晴らしい。だが、アルエ・ネフティスのような脆弱が目立つようでは、意味がない。どうにかしてこの力を生み出せないものか>