とある神官の話





 愛している。

 誰かを愛することは、苦しい。苦しいが、私はそれでもよかった。彼女が笑うならいい。幸せならばいい。アルエ。君を守るのは私だ。君が泣くときは私の前で泣いてほしい。

 君のためならば私は、悪鬼にもなろう。魂すら差し出そう。


 私は、救いたかったのだ。






 ―――???年。



 吐息を白くさせる気温。季節は冬だった。今年の冬は数年間のうちで一番厳しい寒さを記録したらしい。
 雪を払った先にある墓標はまだ新しかった。刻まれた名前は―――アルエ・ネフティスとある。

 彼女の体調不良の原因は、例のないあの能力のせいだと言われていた。能力から何らかの影響を受け続けることで、体を蝕まれたということだった。



 ―――すまない。

 手がかりがあればと私も探したが、結局は駄目だった。しかも彼女が息を引き取るのを、私は看取ることが出来なかった。急いで向かった時には全て遅かった。やはり、私は彼女の側にいるべきだったのだ。
 ずきずきと刺すような痛みが常に付き纏う。



「……すまない」



 闇堕者、魔物などと戦うよりも側にいるべきだったのに。私は…。



 ――――愛しているわ


 彼女は、そう手紙を残した。愛している。私は病弱な、よくわからない力を持って守られるだけの女だったけれど―――。そんなことはない!お前がいたから私は、あんな地獄を見てもお前の元に戻ってこれたのだ。
 私は、セラのように強くない。ハイネンのように前向きではない。私は、弱いのだ。



「アガレス」



 雪を踏み締める音に、ちらりと視線を向けた。黒に近い青の髪が無造作に揺れる。どうやら時間らしい。

 つい最近、発覚したことがあった。
 それは辺鄙な土地にある一つの町といっていい。町といっても大きくなく、"隠れるにはうってつけ"らしい。
 ――――断罪を。