「シエナ・フィンデルか」
「えぇ」
「調査として調べさせてもらった。事情は聞いているな?」
「はい」
室内は、どうやら結構な具合で荒れている。そこから調査としてやってきた神官が私に向かってそう話した。
何かあってもいいように武装姿だった。
「身柄はブランシェ枢機卿の命によりランジット・ホーエンハイムらが護衛をかねることになりました。ご確認いたしますか?」
「いや、無用だ。エルドレイス神官。既に我々にもそう連絡が入っている」
部屋から新たに出てきた神官が「完了しました」と告げる。それに男が頷く。
部屋の荒れ具合を見ると、何か探しているようにも見えた、と男はいう。心当たりなんかあるはずがない。それに私自身を探していたともいえるため、一人の行動はひかえたほうがいいと言われた。
顔を出したアゼル・クロフォードが、超絶不機嫌な顔だった。それには男が苦笑する。
「調査は済んだが、後で呼ばれる可能性もあることを理解してくれ。それから室内を調べる際に動かしたりもした。申し訳ない」
「いえ……」
では、と神官らが家を出ていったのを見送ると「はあ」とうっかり口に出てしまいたくなる惨状が待っていた。
まだ冬だからよかったかも知れない。
侵入者は土足のまま歩き回ったが、足跡は水滴のみ。ただ無理矢理入ったために血液反応があったそうで、顔をしかめる。
居間は本がまだ散乱しているが、綺麗だった。どうやらアゼルが少し片付けてくれていたらしい。
「家にいなくてよかったよ」
「というかシエナの家広いんだな。人で住んでんのか?」
「ええ。たまにアゼル先輩が泊まりに来ますよ―――ああまずどうしよう」
荷物を端に置いて、悩む私に「居間から片付けていくしかない」と結論。
まずは適当にそれらしい場所へ戻していく。たびたび場所を聞かれると私がそれに答える。
何か持ち出されただろうか?と確認しつつ片付けているのだが、今のところ何もない「捕まえたら」
「絶対シメる」
物騒な言葉をはいたアゼルに苦笑するも、ゼノンが「同意します」と言ったものだからぎょっとする。何故だろう。本気でやりそうだ。
居間付近は家に何度もきているアゼルとゼノン、ランジットに任せ、私は他の部屋を見ていく。不思議なことに確かに何か探られたような形跡はあるが、居間よりはマシだった。それより――――書斎が酷い。うわーと声を出してうなだれたくなる。
本が引きずり出されて、無残な姿で散乱している。中には裂かれたようなものもある。
誰かが家に侵入した、という嫌悪をふりきり、私は足を踏み入れる。大量の本を分類し置くのはのちのちでやろう。今は本棚に戻すだけだ。
書斎には大量の本が眠る。
父は本好きというか、活字中毒というか……。本もまた何でも読む。図鑑から絵本、辞書もしかり。そしてたびたびメモなのか落書きなのかを本に残す。それを見るのが好きだった。
"変な生き物図鑑"や"可愛い小物でセンスを磨こう"やら、もう訳がわからない。後者はセンス云々言われたから買ったのではないだろうか……。
「ん?」
問答無用に本を棚に戻していると、やはり幾つかの本が切られている。それは表紙であったり背表紙だったりしているが、どうしてこんなことを?
えぐられたような表紙を見ながら、ん?と思う。紙切れだ。例えば―――無理矢理な角度から紙を引っ張ったら破れた、その切れ端みたいな残り片。それを引っ張ってだしてみたが、残念。余白の部分らしかった。
―――何かを探していたといっていたが。
自宅には、そんな高価なものはないはず。父はお金は銀行に残しているし、家には金目のものなどないような気がする。父は装飾品やブランド物には興味がないし(センスがあれだったためか?)……。


