* * *
長距離移動は疲れる。
聖都に降り立った私は、うっかり足をふらつかせた。それに腕をひいて「大丈夫ですか?」とゼノンが聞く。大丈夫。心配そうなゼノンに私そう言う。
「ゼノン!」
待ってたぞ、とこちらに駆け寄ってきたのはランジットだった。久しぶりだなシエナ、と言われて頷く。だが和やかな空気ではなく「まずいことになったぞ」と切り出した。
何があった?
私の家に何者かが侵入したということが、上の耳に入ったらしい。そして早々と調査のために神官が入ったと。
「そんな」
「上ってのが枢機卿長の命には無理だった。すまん」
何故枢機卿長が?
問答無用な調査が入らないようにとアゼルがいるはずだ。それを言うとランジットが髪の毛をわさわさとしながら「ご立腹だぜ」と言う。
枢機卿長の命、書類があるのなら断れない。
わざわざ枢機卿長の書類が必要な調査というのは―――――。
「侵入者が原因か……?」
上の連中は、私があのセラヴォルグの義娘だと知っているし、あの家に特殊な防犯用術がかけられているのも知っているはずだ。
破られたとはいえ、内部にも術はかけられている。やたらむやみに立ち入り、反発されたら危険である。だからこそ調査は私がくるまで入らないのではないかと思っていた。なのに、何故?
それから、とランジットが続ける。
少し前、禁書が行方不明となった。その一部が闇に堕ちた者から発見されたという。その者は精神を蝕まれつつ、こう口にしたという。
――――セラヴォルグに連なる者を探せ。
闇に堕ちた者でセラヴォルグを知り、かつ関係者を狙うなら――――義娘に向かうとも考えられる。それが正式な書類を取ったという理由らしい。何かあったら対処出来るように。
それに私は、あのウェンドロウの被害者であり―――目をつけられている。
聖都から見張られ、指名手配犯にも覚えられている。
どうして?
「で、侵入者がそいつらに関わる奴じゃないかってな」
「成る程。それでお前っていうことか」
「おうよ。身柄まで向こうでと言われたらたまったもんじゃねぇからな」
護衛という名の監禁のようなことをされかねない。ただでさえ"危険視"されている私なのだ。
何者かに襲撃される可能性だってあるため、ブランシェ枢機卿がランジットを私の護衛にと命じたらしい。それで戦闘用の格好なのか。
私が知らないところで、私を守ろうと動いている。
ぎゅっと荷物を持つ手に力が入った「気に病むことはないんだぜ」
「みんな好き勝手に動いているからな。まあ、奇人変人ばかりなのがあれだが」
そう笑ったランジットに、私は頷く。ありがと、と。
まずは家に、と向かう。
聖都はだいぶ雪が減り、もうすぐ春だなと思わせる雰囲気だった。春、春か…。父の墓参りにも行きたい。
私の自宅は、父の持ち物であった。それを私が今使っている。広い家だ。一人で住むには些か広すぎるとも言えるかもしれない。あのセンス皆無な父から考えると、家具などは中々いいもので、使いやすく私は好きだった。移動させた本もまた私の宝物でもある。
到着した家に、私は息を吐く。


