とある神官の話






「シエナ。お前は聖都に戻れ」

「でも」







 幽鬼の件はどうなる?
 私の言葉を、部屋に入ってきたハイネンが「そうしたほうが良さそうです」と遮った。

 溜息まじりにレオドーラの近くで立つと、その複雑な表情の理由を述べた。






「選出会議の日取りが決定されました」

「何だと?」

「会議自体は来月ですがね」







 選出会議。だいたい春にひらかれるそれは、新たに枢機卿や高位神官を選ぶ会議である。昇進会議といえる。
 最盛期に比べると枢機卿の数は少ないため、新たに枢機卿が選ばれると言われていた。その一人が「ああついに面倒くさいことが」とぼやいているハイネンである。

 それより、と続けたハイネンの言葉はさらに続ける。






「調査として立ち入られる可能性もあります。どうせ立ち入られるなら本人がいたほうがいい」







 あの家には、父がいる。父が使っていたものが、あそこに。
 それが荒らされたというのはひどく悲しく、そして憤らせる。

 幽鬼の件はバルニエルの神官に任せ、私は聖都に戻ることに頷いた。他人にあれこれ調査とはいえ立ち入られるのも不快だ。今はアゼル・クロフォードがいるとはいえ、やはり自分で確かめなくてはならない。
 部屋に戻り荷物をまとめつつ、溜息。急いだほうがいいとはいえ、せっかくバルニエルに来たのにと思う。いや、それどころじゃない。