チョコレートの甘い匂い。時期が過ぎてしまったが、まあいいだろう。私は料理が苦手なため、バルニエルの知っているお店でチョコレートを手に入れる。小さなカードにコメントを書いたそれは、親しい人の手に渡る。
アーレンス、ロッシュ兄弟。モージおじさん。聖都に戻ったら先輩に、孤児院にも……と考えていた「ふふふふ」
「何ですか?」
ハイネンがチョコレートと私を見比べ、にやにやしている。彼にもと用意し「市販のですが」と断った上で渡したのだが……。
「チョコレートは媚薬とも聞いたことがあります。貴方、気をつけなさい」
「な、何を言い出すんですか!」
「だってこれから、ゼノンとレオドーラの元に行くのでしょう?むふ」
襲われないように、とにやにやしているハイネンの背後に、青筋を浮かべたアーレンスの姿。よし見なかったことにする。そして物音も聞こえなかった、よし。
ハイネンから聞いたところ、あの二人はまた鍛練場にいるらしい。
そう。ただのイベント。というかレオドーラには少し前に板チョコをあげているから、本来ならばあげなくてもいいのではないか?と私は考えた。が、日頃世話になっているのは間違いないし、数少ない友人の一人なのだ。
――――で。
問題なのは、ゼノン・エルドレイスだ。イイ男になれ待っとけ!的なことを言われたのは覚えている。思い出さないようにしていたのに。
彼は、強く出ない。
それに私は甘えている。
好きという気持ちは苦しい。生憎私はストーカー予備軍とまで呼ばれるほど誰かを大切だと、好きだと思うそれ……。恋をしたことがないというわけではない。だが、それは自然消滅してきた。憧れに近かったのか、あるいは自分には無理だとしたか。


