とある神官の話






「お前たちが私の可愛い後輩の"事情"を知るずっと前から、あいつは既に知っていた。お前らより先に味方だった奴ってことだ。ふふふ手強いなあ?ゼノン・エルドレイス」

「……貴方は味方にはなってくれないんですか」

「ふん。私は誰の味方にもならない。ただ」

「ただ?」


 むしろ面白がっている絶対。
 あの父も「連れて来ればいいのに」云々言いやがるし、ハイネンにはからかわれるし。今ならミスラ・フォンエルズらに弄られるキースね気持ちが痛いほどわかる。

 アゼルが弄んでいたナイフを消失させる。どうやら戻したらしい。


「女が成長したいのにそれを待ってやれない、または強引に迫るなどの腐れ摩羅は私が去勢してやろうと思っている」



 ぞわっ。
 湧いた殺気。ランジットが何かを想像したらしく「蹴られても死ぬほどなのに……」と小さく漏らす。想像するな馬鹿。

 だが、アゼルのいう通りだと思う。
 彼女は"ただの"神官、"だった"。過去形なのは既に、指名手配されていたリリエフの件もあれば、アガレス・リッヒィンデルのこともあるからだ。
 今は彼女は少し有名人である。それに近付く輩もいるだろう。

 気に入らない。




「全くどいつもこいつも。男尊女卑より女尊男卑が一番さ」

「どこの女王なんだ貴方は」




 ほら行くぞ、とランジットを引っ張って部屋を出ていくアゼル。扉の閉まる音とともに出たのは溜息。

 ――――嫌な予感がする。

 そんな予感などいつものことではないか。そう私は部屋を出て、"準備"をすべく自宅へと向かった。