宮殿内を足早に進み、やや乱暴に部屋の扉を開けると「のぉっ!?」と武装したランジットが驚いたような声を上げた。同じく武装したアゼル・クロフォードが「何だお前」とこちらを見る。
「これから仕事ですか?」
「ああ。ハイネンが別件ができたとかでジャナヤにな。で、何があったのか?」
――――何があった?
キースに言われて心配になった彼女に私は会うため、まずブエナを頼った。そうして、その、シエナの自宅へと向かい、彼女の元気を確かめた。ああシエナさん!私はそれだけで充分だと、早々に引き上げるつもりだった。
だが、そこで予想外なことが起きた。そう!シエナさんの家に上がることになったのである。
広々とした家は、一人で済むには些か広すぎるものの、あのセラヴォルグの持ち物であるらしく、ああと納得できた。変に緊張している自分が何ともまあ、笑えるくらいだった。しゃんとしろ自分。
そんな中気がついたのは、シエナさんが己が贈った"雪の思い出"を身につけていたこと。
自分が贈ったものを、好意を寄せている人物が大切にしている、または身につけている!
なんともまあ、むず痒いような嬉しいような複雑な気持ちは、自分が馬鹿にしていた恋に浮かれていた人物らと同じであろうなと今ならば思う。
私は酷く浮ついた状態だった。
それに目敏く気づいたハイネンに「夜這い、いや昼這いですか」やら「いやあ、貴方も頑張ってますねえ。見ているこっちが照れますよ」やら散々弄られたのだった。だから、顔が赤くなったのである。
だが―――――。
先程会ったあの、レオドーラ・エーヴァルトという神官。シエナとかなり親しい様子だった。
同期といっていた。腐れ縁だとも。だが握手してなんとなく、わかった。あれは―――――敵だと。恋敵。
「……シエナ絡みか?」
「あれだろう。レオドーラ・エーヴァルトにでも会ったか」
恋仇には負けるつもりはっ……!と意気込みかけた私は、あ、と我にかえる。クロフォード神官は知っているのか?
おもしろくない、とむすりとしたシエナの先輩は「まあ」とだけ。だがすぐに意地悪げな笑み。
「あれよりはお前の方がマシかも知れないが、まあ、どちらにしろ苦労するし"あの人"が許さないだろうな」
「"あの人"?」
聞き返したのは私だけではなく、ランジットもだった。それなりに"事情"を知っている上での興味。傷つけるならば許さないが、"味方"は多いほうがいい。
とは思うが……。
アゼルは手の平から、まるで手品のようにナイフを出現させる。
彼女は"能力持ち"で、己が取り込んだものを出して戦闘に立つ。持てる量は今のところ謎だが、いわば歩く武器庫と思っていい。まあ、取り込み出現出来るものは限られているが。
ナイフを指先で弄ぶ。


