とある神官の話





 会いに行くといっても中々時間が取れなかった、というのもあったのだが……という時に、「あの糞ハゲ」という不吉な声に全員の視線がハイネンに向けられた。
 手紙が役目を終え、私の手元にあったメモも消えていく。



「レオドーラ、貴方は幽鬼を見ましたか?」

「あ?ああ見たが……」



 幽鬼?と私が言えば、ゼノンが説明してくれた。
 "幽鬼"は元はというとヒトである。ヒトが魔に魂を売り渡した、または支配された成れの果てで、魔物の一種とされている。そして彼らは召喚主によって召喚されることが多いのだと。

 そんな幽鬼がノーリッシュブルグ、バルニエルなどで目撃されており、被害も出ているとか。
 私は見たことがない。




「何に見えました?」

「何って……真っ黒いフードを着た不気味なやつだったが、お前じゃないとか言ってた気がするがちょっとその辺はあやふやだな」

「それ大事でしょうに」




 それで怒られなかった?と言えば、明後日の方向を向く。ああ怒られたんだとわかる。彼の上司がアーレンス・ロッシュだと知っているため、私は思わず笑ってしまった「さてはて」



「私は昔、幽鬼に追い掛けられたことがありまして」

「は?」



 あれはいい経験でした、などとのんきにいうものだからぽかん、とレオドーラがハイネンを見遣る。「あいつらに?まじかよ」と言う。

 どんな奴らかしらないが、驚くことにレオドーラはその"幽鬼"に襲われて今にいたるらしい。聖都に入ってしまえば、侵入できない。
 怪我こそ今は治癒されふさがっているが、まだ痛みはあるのは先程私がうっかり揺さぶったときに証明済みである。






「"あれ"、探している人が"あれ"をみた場合、召喚主が見えるんですよ」

「そう、なんですか?」

「まあ大半が見つかってしまってこの世とさよならしてしまいますが」

「おいさらっと怖いこというなよ」




 その通りだ。ははは、と笑うハイネンが言うから尚更。よく生きてたなこの人。だがハイネンだから、と思って妙に納得してしまうのはハイネンだからだとしか言いようがない。

 それで何故私は呼ばれたのだろう?先程の手紙を開くために?それだけならわざわざ連れてくる必要はない。

 私の疑問はさらっとこの奇人変人代表(だと思う)は解決した。しかもまた厄介なものを予感させるだけの、言葉。



「バルニエルに行くんですよ」




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