呼び出すなら電話でもいいのに、と思いながらハイネンを一旦中で待ってもらい、私は急いで着替える。
宮殿への呼び出し?誰が?
行けばわかります、といったきりハイネンはにやにやしゼノンに絡んでいったので、私は諦めて着替えていた。久しぶりに着る神官服をちゃんと着て部屋を出れば、何故か顔が真っ赤なゼノンが挙動不審のまま「い、いきましょう!」と先に出ていく。
「からかうのって楽しいですねぇ」
何かしら言われたらしいが、何を言ったんだろうこの人。
雪がちらつく中、宮殿へと向かう最中もずっとゼノンは変だ。何を言われたのかと聞いてもよかったが、別にいいかとやめた。にやにやしているハイネンにやや腹立つような、複雑さを抱えたまま、宮殿の門を潜る。
入口で外套を脱いで抱えたまま、私とゼノンはハイネンの後をついていく。その間、やや視線が痛かったが無視。
そうしてとある部屋の扉を開けて、入ったハイネンに続けば「だーかーらー」という男の声。聞き覚え、いや、見たことがある、いやいや、私の知っている人物がぼろぼろな格好でそこにいた「えっ」
ハイネンの横を抜け、部屋にいた神官の横を抜け、なにが、と驚く。
「レオドーラ!貴方何が、どうしてここに?」
「お、おお久しぶりだなシエナ――――っていだだだだだ!」
「わ、ごめん!」
勢いあまって負傷したらしい肩に触れたら、声。謝った私に、懐かしい顔が苦笑した。
レオドーラ・エーヴァルト。
バルニエルの神官で、私の同期で、友人。腐れ縁ともいう。長い黒髪を高い位置で結い上げて、頬にはガーゼが貼られていた。何か攻撃されたような姿である。友人がそんな姿で現れたら驚くに決まっている。
「ちょーっと、いろいろありましてねぇ。まずはっと、ああこちらは高位神官のゼノン・エルドレイスさん。私の友人なので心配いりませんよ。それから」
ハイネンの言葉をレオドーラが引き継いだ。
「レオドーラ・エーヴァルトだ。バルニエルの神官で―――こいつとは同期で腐れ縁」
「悪かったね腐れ縁で」
「ゼノン・エルドレイスです」
差し出された腕を、レオドーラは握る。よろしく、と挨拶が済む。
それで何故、と私が切り出すまえに「じゃ、読みますか」と無造作に置かれていた手紙を手にとる。だが、私に「手を」と手を出させると、その上に手紙を置く。すると――――かけられていた術が解けていき、浮遊する。
その術がどこかで……と思う。開いた手紙を一人、ハイネンが読むのを見守る横げ「聞いたぜ」とレオドーラが私を見遣る。
「お前、少し見ないうちにハンパねぇくらい有名人じゃねえか」
「……私はなりたくなかった」
「ロッシュ神官が心配してた。あれもまあ、あの人が書いてたぞ」
内容はしらねえが。
ロッシュ。アーレンス・ロッシュか。お知り合いですか?とゼノンに言われ、頷く。バルニエルの高位神官だと。
ジャナヤの件なら、耳に入ってもおかしくない。リリエフのこともあったし、と思うと頭が痛い。
父セラヴォルグが亡き後、保護者的な位置にいたのがアーレンス・ロッシュである。つまり、今に至るまでの親ともいえるのだ。レオドーラ同様、しばらくあっていなかった「おや」
「こちらはシエナさん宛てですよ」
受けとったのは、小さなメモ程度の紙。そこには元気かと、顔を見せに来いと書いてある。横から覗いていたレオドーラが「相変わらずだな」と言い、それに私は頷いた。


