預かった外套をハンガーにかけながら、「当たり前です」と返す。誰がゼノンがやってくると思うのか。
そして私も私だ。何でストーカー予備軍を家にあがらせているのかわからない。雪降ってるし、というのは理由にならない。なら何故。
紅茶に口をつける彼は、ふっとこちらを見た。
当然私はお洒落さ皆無な私服で、しかも"雪の思い出"というゼノンから貰ったネックレスをつけていた。それに気づいたらしく「気に入って貰えてよかったです」と言われ、視線をそらす。
何を動揺しているんだ私!
彼は、嬉しそうに笑った。それに私が照れるというか、いたたまれない心地になる。恥ずかしい。慣れないことはするべきじゃなかったのだ。私とゼノンの関係は、友人、になるはず。友人を招いたって別におかしくはない。
シエナさん、と呼ばれて「はい!」と僅かに声が上擦ってしまった。
「そう緊張せずとも」
「そ、そういうゼノンさんだって何か、緊張してませんか」
「ばれましたか」
さらっと答えるのを見れば全く緊張していないように見える。これで緊張してるのか。私ならがちがちになるというのに。
「女性の家にあがったことがないのでどうも―――」
「え、嘘だ」
"あの"ゼノン・エルドレイスが?女性の家に入ったことがない?
ファンクラブまであるということは、それなりに―――じゃなくてかなりモテるはずだ。でなければファンクラブなどは存在しないし、そんな女性らから睨まれることもないはず。
嘘だといった私に「本当ですよ」という言葉が返された。
「シエナさんは――――」
言葉と重なる音。それは来客を意味した。「まってて下さい」とその場を後にし、玄関へ向かう。
今度は誰だ、と覗き穴から外を見れば一人の影。黒に近い青色の髪が揺れた「私ですよー」
なんで!うっかりそう大きな声が出て、すぐ扉を開けたら、久しぶりに見るハイネンがいた。お久しぶりです、というのとああなんともまあ悪いタイミングで奥から様子見をしにきたゼノンが顔を出し、鉢合わせ。
「あ」
「おやまあ」
「あのですね、これには深い訳が!」
「いやいやいや、若いっていいですねえ。若者よ恋愛せよ!ふふふふ」
「ちょっと聞いてますか!?」
にやにやするハイネンと、やや困り顔のくせににやけるゼノンと、私。ああもうどうしたらいいんだ!と頭を抱えたくなる。何の用事なのだろう、と聞けば「すみませんが」
「ちょーっと、宮殿に来て下さいませんかね」


