「そういえばフィンデル神官とは最近会っているのか?」
「いえ、ここ一週間近くは缶詰状態だったので。何か?」
「彼女もジャナヤの件から大変だろうと思ったのだ」
彼女は休みを貰っている。ゼノンは宮殿で仕事をしているが、彼女は姿を見せていない。開いた時間にブエナの孤児院に顔を見せたら、そこにも来ていないという。
心配、気になるに決まっている。
最後に別れたときだって、彼女は大丈夫だと言って笑った。痛々しく見えるくらいに。
空となったカップを置きキースが立ち上がった。意外だな、などといいながら。何が?とゼノンが再びペンを持ちながら聞けば、笑み。
「"ストーカー予備軍"というから、家も知っているのかと思っていたのだが」
「あくまで予備軍ですからね、予備軍」
「認めるのかお前は」
あまりしつこいと嫌われるぞ、と笑うキースに「貴方こそクロフォード神官にいい加減告白したらどうです」とゼノンはぶつけてやった。
客人が去り、部屋に残ったゼノンは髪の毛をかきあげる。溜息。確かめようにも、知っているであろうハイネンらは口を閉じといる。シエナには会えていない。
――――ああ、本当に。
戻ってきたランジットが「あれお前だけか?」と口を開くが、ゼノンは疲れた顔のまま「ああ」と返事を返す。
* * *
―――――聖都。
暫く休みということもあって、私は自宅に引きこもっていた。
ジャナヤの件で、公にセラヴォルグの娘だということが広がり、視線を痛いくらい集めてしまう。血の繋がりのない娘だというのに、と自嘲気味に笑えてしまう。最悪だった。
そんな事もあって、私は宮殿には足が遠退いていたのだ。
広い自宅で一人、掃除をしたり本を読んだりしていた。父が私に遺した多くのものが、ここにある。
無駄に広い家に、書斎がある。様々な書物の中に時折"きつねのぼうけん"やら、"林檎姫"やらの児童書や絵本があるのは、私へのものだ。拾われた当時、私に何か話すために集めたのだろう。
あの父が児童書や絵本を選んでいる姿を想像すると、笑えてしまう。しかも、だ。
「うわ、これにもか」
"林檎姫"の絵本の最後のページに、父が書いたであろう字が続く。
――――最愛なる君へ。君かいつか嫁ぐと思うと私はいてもたってもいられなくなる。なので多分、君に恋人が出来たら父は一発その恋人を殴ってやろうと思う。


