「何を考えているかわからんな――――まあいい、ヨハンは休んだらすぐに発つのだろう?手配しておく」

「わかりました」

「それから―――レオドーラ、お前は残れ」

「ええ!?俺今日休みじゃ」




 ヨハンが「残念だったな」と言わんばかりの意地悪っぽい笑みを浮かべていやがったのを俺は見逃していない。次会った時に覚えてろよヨハン・ムブラスキ!と呪詛を唱える。
 無情にもぱたんと閉じた扉と「撤回だ」という声が重なった。

 鬼畜上司は書類を眺めて、更に不機嫌になっていく。あれ、何でだよ。やっぱりあれか、正座か?手合わせか?緑化されるのか?



「不愉快だな」



 ひぃ!これはまずい。
 ロッシュは"能力持ち"である。木々や草花を操るし出現させるというのだが、いつだったか何のプレイなのか蔓でぐるぐる巻きにし、しまいには花を咲かせて放置というあれなあれがあった。
 アーレンス・ロッシュをキレさせるな。これはバルニエルにいる神官の誰もが知っていることである。
 俺はまだそこまではいかず、頭に花が咲かせられるくらいであるが……嫌な予感。ああほら、指ぱっちんして花出したよ怖いんだけと。

 俺、レオドーラ・エーヴァルトの運命やいかに―――――じゃねえよ。



 俺か冷や汗かきながら一人突っ込みをしていたとき「聖都でつい最近」と低い声。



「賑わせた話を知っているか?」

「聖都……」

「人体実験をしていた奴らが摘発され、しかも」



 人体実験、という言葉に俺は眉をひそめる。あまりいい話ではない。しかも、とロッシュが続けた言葉に更に驚く「はあ!?」


「聖都ではなく別の土地だがな。それに"あの子"が関わっていた」



 アガレス・リッヒィンデルが表に姿を見せたらしい。そりゃ驚くだろ!と俺は思うが、それよりも"あの子"が気になった。

 アーレンス・ロッシュが"あの子"と言う場合、その"あの子"は一人しかいないのを俺は知っている。同期だったからだ。
 ―――――ああ、そうか。
 それで人体実験の摘発、か。ロッシュが「あのハゲらが何か言ったらしいな」と不機嫌というより怒りを帯びた顔になっている理由も納得した。
 あいつ、何でそんな危険な……。そんな目立つようなことを何故。