「書類持ってきましたよ」

「書類?」




 ヨハンから手渡され、封じられた手紙を開けて目を通す。「春に会議で」と見ながら説明したことにようやく納得した。

 シュトルハウゼン神官を、枢機卿へ。

 そのための書類や、推す者らの間であれこれ動いているのだろう。枢機卿とはいえ、いい奴ばかりではないことを知らないほど、俺は馬鹿ではない。それに、シュトルハウゼン神官が枢機卿ではないほうが不思議だったくらいだ。
 今度は本人も"その気"らしい。あまり関わったことがないが、変わり者として有名である。





「で?お前らはそろってどうしてくれようか」

「正座は勘弁して下さい」




 俺は先にいっておく。

 いつだったか俺がやらかした時に、正座を永遠とさせ、そこで書類をさせた。朝から晩まで。足が痺れるを通り越して感覚があやふやになるまで、である。
 他には鍛練。めちゃくちゃにたたきのめさたりという苦い思い出がいろいろと蘇り、逃避するように明後日な方向に視線をむけた。
 ヨハンが持ってきたやつで忘れてくれないかなという期待をしていたのだが。




「ヨハン、お前はフォンエルズ枢機卿に何と言われてきている?」

「"渡したらすぐ戻ってこい"と」

「幽鬼の件もあるだろう。あれは腐っても枢機卿というわけか」

「それから、伝言が」




 ぴくり、と眉が動く。お、中々面白い予感がするぞ、と明後日へ向けていた視線を俺は戻していく。一方のロッシュはというと眉間にしわを寄せていた。



「たまには遊びに来い、だそうです」

「……(あの毒舌大魔神め)」



 部屋の温度が下がった。「お前が仕事をちゃんとやったらな、と伝えろ」と。ヨハンの顔に何故か影。どうやらミスラ・フォンエルズを上司としているだけあって、苦労しているらしい。
 "能力持ち"には変人が多いとも囁かれているが、俺もそう思う。だが俺はそんな中でも比較的、まともだと思う。

 温度が下がった中、大きく溜息をついたロッシュが「あの馬鹿は」と続ける。