それで散々、見習い時代からかわれたりしたのだ。無論やり返したが。
 女顔で何が悪い!不細工よりマシだろ!などと思う一方、やはりかっこよく見せたいなとも思うこの複雑な男心。今ではこの女顔が役に立っているのだが。



「あ?」



 人だかりが出来ている。やじ馬らしき男が「やっちまえ!」やら「いいぞあんちゃん!」やらの声。あーあめんどくさいなあ。ただでさえ寒いってのに、よくもまあやじ馬か集まるものだと感心してしまう。
 というか神官がいる建物の近くで喧嘩かよ。いろんな意味で最強じゃねえか。

 ここで無視し、騒ぎが上司であるアーレンス・ロッシュに入ったら無言で制裁が下る。勿論騒ぎの主と俺。



「はいはいごめんよー通せよー」



 人を押しのけるようにして入ると、そこにはすでに決着がついたらしい転がる男と、青みがかった銀髪の男がいた。「ったく手間かけさせんじゃねえよ」と伸びた男に踏み付けつつ「あ」と声を発した。



「おー、レオドーラちゃん」

「死ねお前。って何で……」



 騒ぎを聞き付けた衛兵が男を引きずっていき、人だかりもまた各自散っていった中、何でヨハン・ムブラスキがいるんだ?と疑問。彼はノーリッシュブルグの神官なはずなのだが。
 そう怒るな、と笑うヨハンにレスティとは真逆だなと軽く殴りたくなる。

 ユキトであるからか、夏よりも冬に会うほうが元気なのは気のせいではないだろう「ロッシュ高位神官っているか?」




「何だ、用事か?」

「フォンエルズ枢機卿からの、な」

「人選間違ったな、絶対」

「失礼だなお前。男に好かれるほうが多いくせに」

「んだと―――――あ」




 やっちゃった。
 建物からさほど離れていないことをすっかり忘れていた。ああ俺馬鹿。超馬鹿じゃん。
 さよなら、俺。



「随分賑やかだな」



 どこぞの枢機卿を思わせる、何か企んでいるような笑みが恐さ倍増。ヨハンでさえ黙り込んだのは多分、"どこぞの枢機卿"を思い出したからだろう。
 腕組みをし、そこにいたのは――――アーレンス・ロッシュである。

 ついて来い馬鹿者、といって背をむけた彼に、ヨハンと俺は顔を見合わせた。
 再び建物へと戻ってきたため、休みじゃねえじゃんと思う。しかも何かこう、嫌な予感がしてならない。部屋に入り、ぱたんと閉まる音。ロッシュは無言。
 ようやく口を開いたのは、ヨハンだった。