「多分、ロッシュ神官の言う通りでしょう。あれは幽鬼で間違いない」



 黒髪の女を狙うということで、レオドーラが選ばれておとりとなったのだ。



「倒したんだろうな?」

「いやそれが、ははは」

「……」



 はあ、と溜息をついたロッシュはこめかみをほぐしていく。予想はしていたが、こうも逃げられると不愉快だ。死人は今のところ一人のみ、あとはただ切り付けられたなど未遂で済んでいる。が、好き勝手にさせるつもりはない。
 そして、だ。
 実はいうと「ノーリッシュブルグでも幽鬼が目撃されている」のである。
 まじですか、と顔に似合わない口調のままレオドーラは顔をしかめた。幽鬼は戦う相手としては強い。魔物よりも断然に、だ。はっきりいえばめんどくさい相手なのでレオドーラも相手をしたくはなかったが……如何せん、上司の命は絶対だ。




「……次まで休んでおけ」





  * * * 



休んでおけったってなあ……。
 ファー付きのコートのポケットに手を突っ込みながら、建物を出れば雪こそ降っていないが十分寒かった。ふっと白い息がもれる。
 幽鬼の件は、向こうのほうが上手だったのだ。女装までして完璧だと思ったのだが、化け物にはちゃんと性別がわかるらしいなと俺は思う。
 不本意だが俺はぱっと見、女に見られる。身長はあるのにもかかわらず、だ。飲み屋にいけば酔っ払いに絡まれるし、ナンパされるし何なんだ。とはいえ、またまたな容姿をしているのは自分でもわかっている。