最初は、うっとうしかった。いや、"最初"も今も変わらない。そうだ。だが―――。
 少し振り返って、それだけ言った。そしてぽかんとしているゼノンを置いて私は歩きはじめた。

 彼がどうであれ、私は変わらないでいようと思う。彼が私を、ただのシエナ・フィンデルとして見ているのだから。
 雪道は思うように進めないので「シエナさん!」と呼ばれたときでもさほど距離はひらいていなかった。呼ばれたので仕方なく立ち止まれば、ゼノンが追いつきすぐ隣にくる。

 ――――何故。

 彼は、にやにやしていた。はっきりいって変人丸出しである。




「それは、その、一種の愛の告白と捉えても?」

「何故そうなるんですか!」

「ふふふ」




 思いっきり引いた私は、ああもうと泣きたくなった。
 意を決して、そうだ無視しようと思った。にやついた彼を無視し雪道を歩く私に「どこ行くんですか?」とあれこれ話し掛ける彼。

 これでいい、のだ。



 ブエナさんのところです、と答えながら思う。

 誰だって何かしら、抱えているものなのだ。私が今でも体に刻まれた紋様のせいで"危険因子"とされているように。ハイネンがアガレスと関わりがあったり、ラッセルは牢にいた。
 誰だって、そう。
 わかっているけれど、傷は痛む。痛むのは己なのだ。他人ではないという、そんな気持ちが無いわけではない。でも、でも前を向かなくてはならないのだ。―――父であるセラヴォルグが、私を救った。救われて、ここにいるのだから。