とある神官の話





「今年もいろいろとありましたね」

「ええ。本当に」

「何が一番記憶にありますか?」




 背広やドレス姿が目立つ。演劇といっても、歌や音楽が入る歌劇なのだ。着慣れない服装と場所に、人酔いしてしまいそうになる。

 今年、か。

 聖都。ミノア。そしてノーリッシュブルグ。様々な人と出会った。インパクト大なハイネンとか。ずっと牢にいたラッセルとか。思えば怒濤のように過ぎた。




「えっと……ノーリッシュブルグ、かも知れませんね。幻術やら何やらありましたし」




 本当、いろいろなことがあった。

 それには「確かに」と頷くゼノン。それに私も聞き返した。ゼノンはどうなのか。高位神官であるからには、もっといろんなことがあっただろう。
 そうですね……、と考える彼は「今」と一言。今?




「シエナさんとデートしていますし」

「デっ!?」

「ああ、もう始まりますよ?」



 いけないいけない。
 うっかり立ち上がるところだった。控えめに笑うゼノンと、もうすぐ始まる劇。私はしぶしぶ舞台へと目を向けた。





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